KLファッション・ウィーク(KLFW2020)、コロナ禍でオンラインにて開催 ~リアル・ランウェイ・ショーをしのぎ、大盛況のうちに閉幕~

Updated: Jan 4


 11月11日~13日の3日間、毎年恒例のファッションの祭典であるKLFW(クアラルンプール・ファッション・ウイーク)が開催された。


 新型コロナウイルスによるパンデミックを受け経済が底冷えする中、ファッション産業界も同様に大打撃を被っている。外出の機会が極端に減り、新たな衣服の購入が不要不急となっている現状から、今年のKLFW開催には当初、懐疑的な声も多かった。だが、それを大きく跳ね返すように、オンラインでショーを開催するという前例にない快挙を果たした。2013年の創始以来初となるオンラインによるファッションショーは、『KLFWデジタル2020』として配信され、世界に誇るべき革新に満ちたデジタル・ファッションショーとして、大盛況のうちに幕を閉じた。

 開催までの道のり、また、今年注目のデザイナー作品について、ご紹介しよう。


移動制限を受け、深刻な状態のファッション産業


 マレーシアでは移動制限がスタートした3月以降、人に会う機会が激減。業界関係者は現状を「人々がファッションで自分を表現する場を喪失したことが一番大きい」と嘆き、「これから押し寄せる不景気の波を危惧して、消費者の財布のひもが硬くなってきているのは確かだ。生地や各種パーツの製造を含むファッションを取り巻く産業全体が壊滅的な状況に陥っている」と口々に語る。


「今年こそKLFWの開催を!」

2019年、KLFWのランウェイ・ショー

 マレーシアを拠点に活躍するデザイナーの作品を世界へ紹介するプラットフォームとして、また若手デザイナーの育成を目的に創設された『KLFW』は、パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨーク・ファッションウィークと同様、クアラルンプールを舞台に開催されるファッションイベントだ。創設者のアンドルー・タン氏(モデルエージェンシー、アンドルーズ・モデル社の創業者、テイラーズ大学ファッション部門ディレクター)は、「KLFWがスタートする前のマレーシアにはプレタポルテ(高級既製服)に対する明確な概念がなく、クオリティーの確かなマレーシアン・ブランドの既製服が手近、かつ容易に手に入るようになったのはKLFW開始以後」と語る。国内のアパレル業界を世界が求める姿に率いるべく、エコフレンドリー、サステナビリティといった環境へ配慮したファッションをも啓発し、バティックを始めとする伝統文化の継承にも奮闘するタン氏率いるKLFWは、マレーシアに大きな意義をもたらし続けてきた。


従来のショーの幕間の一コマ

 通常は毎年8月、KL有数のショッピング街、ブギッ・ビンタン地区にあるショッピングセンター、バビリオンKLのセンターコートで5日間連続、1日5セッション、1セッション当たり数百名もの観客を集めて実施される。だが今年はコロナ禍で密を呼ぶ不特定多数の来場者を呼ぶイベントなどは開催が許されないうえ、今年の1月以降、タン氏が体調を崩していたこともあり、人々の間では「今年の開催はなし」との憶測を呼んでいた。


 しかし、今年KLFWが開催されなければ、マレーシアのブランド、ファッション産業はコロナ禍に端を発してますます衰退し、業界そのものが消えかねないと危惧する声が広まり、開催を切望する動きが沸き起こった。ファッション業界のみならず、コロナ下では何もできないと意気消沈する人々を鼓舞するためにも、「今年こそKLFWを開催しなければならない」と、満身創痍ながらタン氏はオンラインでの開催を決意する。


困難を極めたスポンサー探し


 ところがタン氏の行く手を大きな壁が立ちはだかった。スポンサー探しだ。


 実際のランウェイは、王室、政財界、人気の芸能人やインフルエンサー、内外多数のメディアによって華やかに彩られるため、ステージ上での宣伝効果は絶大。SNSでの情報共有も大いに期待できる。ところがオンライン上での広告効果は未検証。また過去のスポンサーは、航空業界や観光産業に属する企業が多くを占めていた。大手スポンサーが次々に戦線離脱していく中、これまでもKLFWの屋台骨を支えてきたパナソニック、オンライン・ショッピング・サイト大手のLAZADA(ラザダ)、また新たに加わった大手化粧品メーカーのWARDAH(ワルダ)らが気勢を上げ、さらにYouTube動画サイト『hurr.tv』も加わり、ようやく開催に漕ぎつけることになる。


ストーリー性豊富な新時代のファッションショー

バーチャル・ランウェイの撮影現場

 11月11日午後12時。実際のKLFWステージ上の大画面に映し出されるお馴染みのカウントダウン表示がディスプレイに現れ、続いて士気を高めるビートの効いた音楽がショーの始まりを告げる。毎年恒例のステージ前に座っているかのような錯覚を覚えさせる見事な演出だ。


 ショーの構成は1日5エピソード(KLFWでは1幕を1エピソードと表現)、3日間にわたり合計15エピソードが展開され、作品を披露したデザイナーは合計65名に及んだ。ステージでのショーは通常1エピソード40分程度。今回KLFWデジタルチームは、動画視聴者の心理を的確に捉(とら)え、1エピソードを20~30分に収めた。そこにはランウェイショーと合わせ、緩急に富んだ司会、モデルの日常紹介、デザイナーと視聴者によるQ&Aセッション、各作品の背景紹介、スポンサーPRが数分単位で盛り込まれた。


短編映画のようなショー

絵画を一つイメージした幻想的なショー
伝統舞踊のダンサーも登場した

 「各デザイナーの作品は、ランウェイを間近で見ることができない分、リアルなショーと同じ手法ではインパクトに欠けます。そこで今年は、パビリオンでは実現し得なかったあらゆる可能性を試しました」と語るのは、KLFW広報担当者のコリー・トゥン氏。その言葉通り、各作品の個性や特徴に応じ、スタジオ、歴史建造物、またはマレーシアの美しい自然の中にランウェイが設けられるとともに、作品の背景に潜むストーリーをアシストするクールな音楽、最新かつ斬新な撮影・編集技術がふんだんに用いられ、デザイナーを力強く後押ししていた。短編映画仕立て、コマ送りや巻き戻しを多用した無機質な展開のショー、真っ赤なレンズで撮影したかのように画面がすべて赤く染まり、最後の最後に本来のデザインやカラーが明らかになる衝撃的で実験的なステージも披露された。


ロケーション撮影されたショー

 デザインと真正面から向き合い作品を生み出したデザイナー、従来を遥かに凌駕する表現テクニックが求められ、それに応えたモデルたち、業界の垣根を越えて参加した音楽、映像分野の精鋭部隊。彼らがタグを組み、新生KLFWチームとして、これまでの比ではない途方もないほどの手間と時間を注ぎ込むことで、ダイレクトに作品に触れられないもどかしさを十二分に補い、ストーリー性の豊かな新時代のファッションショーを生み出した。


集客効果抜群だったCMの挿入効果


 デジタルショーは、観客全員が最前列シートで鑑賞でき、アーカイブ上の動画を何度も見直すことができるのもいい。実際のショー会場で2列目以降に着座した場合、ランウェイを歩くモデルの全身を見るためには身体を右へ左へと移動させなければならず、見逃せば後がないためだ。

バックステージで使用されていたパナソニックの製品

 また今回は、観客はランウェイ・ショーだけではなく、最前列かつ正面の席からショーの前後や合間に断続的に映し出されるバックステージの様子やスポンサーCMをも見守ることとなった。その結果、デザイナーがショー準備のために用いていたスチームアイロン、モデルがメーキャップ時に使用していた美顔用スチーマーなどの各種パナソニックの製品は視聴者の目を釘付けにすることに成功。また、リアルタイムでデジタルショーを見ていたほとんどの観客が、各エピソードの終了間際に流れる一連のスポンサーCMが終わるまで席を立たなかったことを動画閲覧者数が示していた。今年スポンサーを引き受けた企業のその心意気に、大いに敬意を払いたいと思っていたのは筆者だけではなかったようだ。

 デジタルKLFWはPRにおいてその優位性を存分に発揮し、スポンサーの宣伝に従来以上に貢献したといえる。


2020年はレイヤード、スポーティ、ミニマルデザイン


 「パンデミックを受け、人々が新調する衣装の数は2着程度。そうとなれば、組み合わせの可能な品がより喜ばれるだろう」とタン氏はにらみ、各デザイナーに声をかけたという。そのため今年はドレスよりも上下に分かれたセパレートの作品、動きやすい服装へのニーズを反映して柔軟性のある生地を用いたミニマルなデザインが数多く発表された。一方で、様々な柄やカラーの布地を重ね合わせるレイヤー技術が多くのデザイナーの作品に用いられ、男性はよりクールに、女性は大人可愛く自己演出できるプレタポルテが多数ラインナップした。

 未来のジミー・チュウ、メリンダ・ルイとして期待を背負う若手デザイナーの旗手、CASSEY GAN(キャシー・ガン)。カラフルなパターン生地をポップでキュート、アシンメトリー(左右非対称)に重ね合わせる個性的な手法を特徴とし、ヨーロッパのファッション・ウィークでも成功を収め、多くのファンを獲得している。

 今年はレイヤー技術にさらに磨きをかけ、ランダムでありながら統一的、ポップでありながらシックを実現。タウンやリゾートでひと際映えるユニークな作品で注目を集めた(写真右)。


 昨年に続き、ファッション専門家と一般視聴者を魅了したのはWYNKA(ウィンカ)。ニット、レース、コットンなどの異素材、鮮やかな原色、パステルカラー、水玉やチェック、花柄を制限なく駆使し、全作品を完璧なまでにキュートに仕上げた(写真下)。



 サステナビリティに挑んだ多くのデザイナー作品の中で、とりわけ個性が光ったのはHATTA DOLMAT(ハッタ・ドルマット)とLAVENDER LIM(ラベンダー・リム)。ハッタ・ドルマットはリサイクルボトルから作られた繊維を生地の一部として用い、モノグラムを前面に押し出しながら、エレガントとスポーティーさを美しく表現した(写真左下)。一方のラベンダー・リムは、バティックデザイナーとしての受賞歴を誇り、エレガントな作品を得意としてきたが、今年はどちらも封印。リサイクルデニムを用いたクールなデニムスーツで勝負し、メイド・イン・マレーシア・デザイナーとして、そのあふれんばかりの才能を駆使し、素材の可能性を余すことなく表現した(写真右下)。




ハッタ・ドルマット

ラベンダー・リム(写真中央)のデニムスーツ

 ”マレーシアの将来を担う若手デザイナー”に名を連ねるMaatin Shakir(マーティン・シャカー:写真右)は、ヨガやテニス用スポーツウェアをテーマに、究極のミニマルデザインに挑んだ。スポーツに適した生地や丈の長さは自ずと決まり、デザインに加えられる遊び心は最小限に留めざるを得ない。表現には引き算に次ぐ引き算が求められる一方、激しい動きに対応し、かつ肌を傷めない高度な縫製技術も要求される。自らを困難な状況に追い込んだ理由についてマーティン氏はショー直後の電話インタビューで、「2020年はこれまでとは全く違う年。数々の制限の中で限界に挑戦することに意味があると思った」と語った。苦悩の末に誕生した作品は、自宅やジム、テニスコート、または街で心を華やげる、シンプルながらも美しいリラックスウェアの数々だった。

 デザイナーとしての地位を確立し、セレブリティをファンに多く持つALIA BASTAMAM(アリア・バスタマン)は、水平線に沈む夕日、自然の美しさをシフォン・プリーツで表現。着心地の良さ、動いたときのシルエットの美しさを極限まで追求した圧巻かつ垂涎(すいぜん)の作品で、王者の風格を見せた(写真右)。


 同じくデザイナーとして当地で名を馳せるJIMMY LIM(ジミー・リム)は、スポーティー、エレガント、チャーミングをすべて1着の服で示し、従来のファンを歓喜させただけでなく、新たな支持も獲得。貫禄のランウェイを披露した(写真下)。


ジミー・リムの作品、スーパーモデルのアンバーチアが着る

 バティック・ファッションは、年々技術が進化し、パターンの複雑化が顕著となる中、バティックデザイナーのMASYADI MANSOOR(マシャディ・マンスール)は今年、これまでの常識を覆す冬用ダウンジャケットを発表。リゾート服、夏服だけの印象が拭えなかったバティック市場に、新たな風穴を開けた(写真左)。


 マレーシアの可能性と力強さ、コロナに負けない気概を世界に示し、前例にない快挙を成し遂げて、『KLFWデジタル2020』は幕を閉じた。


 今年は特別に全作品がウェブサイト上で閲覧できる上、先述の通り、全ステージ、ショーの裏側、スーパーモデルの素顔もオンラインで常に鑑賞可能だ。ショーを通してお気に入りのデザイナーを見つけ、今こそマレーシアン・ブランドを身に着けてはいかがだろう。ファッションを通して、これまでとは異なるマレーシアの一面が見えてくることだろう。(文・写真/渡部明子)


KLFWデジタル2020の作品、動画はこちらから


※KLFW公式サイト

http://klfashionweek.website/

*ページ後半の「KLFW DIGITAL 2020 CALENDAR」から、各デザイナーの作品、ショーの動画を閲覧できる


※動画配信サイト 『hurr.tv』

https://www.youtube.com/c/hurrtv/videos


<著者プロフィール>渡部明子(ライター、翻訳、医療通訳者。金融機関秘書および人事部、大学研究部門事務、米国小学校インターン教師を経験。立命館大学法学部卒。3人の子どもを日本、アメリカ、マレーシアで育てる)

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