息を呑む美しい海と自然の楽園 時間の流れを止める島、プルヘンティアン


 マレーシア半島東部に位置するプルヘンティアン諸島。

 CNNが選ぶ「世界のベストビーチ100」の第13位*、アジアではフィリピンのパラウイビーチに次ぐ第2位にランクインする美しい海を擁するこの島々の美しさは、長らく「マレーシアのモルジブ」と例えられてきた。そのモルジブは同世界ランキングで25位に後退、立場は逆転。自然との共存を目指す島の人々の不断の努力により、その魅力はさらに高まっている。

 マレーシアの至宝とも言われるプルヘンティアンについて紹介しよう。

島の歴史と美しさの秘訣


 本土からボートで約1時間。エメラルドグリーン、ターコイズブルー、瑠璃色のグラデーションに彩られた海を分け入り、水しぶきをあげながらまっすぐに進む。海面を見ると、その透明度の高さに息を呑む。遠浅の浜は太陽光が真っ白のサンゴ砂に反射し、水面と海底にゆらめく幾何学模様を描いている。

 プルヘンティアンとは、トレンガヌ州沿岸から約21キロに位置する大小2つの島の総称だ。小さい島はケチル(マレー語で“小さい”の意味)、大きい島はベサール(マレー語で“大きい”の意味)と呼ばれる。


 マレー語で“停泊”を意味するこの島は、過去何世紀にも渡り、優れた漁場として漁師に愛されるとともに、漁船や交易船の停泊場として用いられてきた。1970年代にはベトナムからの難民船が上陸したことでも知られている。


小魚の群れがはっきり見える浅瀬

 この島の美しさは地元の人々の間では知られていたが、欧米から注目が集まり始めたことをきっかけに、高級ホテル、民宿、バックパッカー用滞在施設、キャンプ場が林立することとなった。

 多数の宿泊施設を擁するも携帯は圏外、Wi-Fiの接続状況も悪く、電気の供給も不安定だ。両島には滑走路どころか道路もなく、移動はすべて水上タクシーのみ。この不便さが島の魅力を保ち、また、訪れる者を否が応でも日常から切り離してくれる。


 プルヘンティアンへは、空路でコタバル空港(スルタン・イスマイル・プトラ空港)へ向かい、そこからバス、スピードボートと乗り継ぐのが一般的だ**。コタバルはクランタン州の州都であることから、プルヘンティアンはクランタン州の島だと思われがちだが、実はトレンガヌ州に属する。


天然の湧水スポットは「真の友に出会える場所」


 半島近辺には他にも島があるにも関わらず、プルヘンティアンが停泊の地として選ばれたのには理由がある。海が荒れた際に逃げ込める理想的な形状をした湾があったこと、そして、その湾に天然泉の湧水スポットがあったためだ。

 湧水スポットは2カ所で、いずれもベサール島(大きい島)にある。1つは比較的大きな湾に位置し、そこにはより多くの船が停泊していたらしい(現在は閉鎖中)。もう1つのスポットは、バブルズ・ビーチ。バブルズ・ダイブリゾートが所有、管理している。


 ここを訪れてわかったことだが、この島は、巨大な岩石の上に植物が生い茂る形でジャングルが形成されている。岩盤を通過して濾過された雨水が、海岸付近で湧き出ているようだ。マレー系の人々はこの天然泉の湧水地をパワースポットやヒーリングスポットとして敬い、「友に出会える場所」、その水を浴びれば「真の友に出会える」とも言い伝えている。

バブルス・ビーチ内で真水が流れるエリア

 バブルズ・ビーチではこの天然泉を浄水して飲料水や料理として用いており、宿泊客は、ペットボトルの水を買わずとも、この水を好きなだけ飲むことができる。


リゾート概念を覆す自然との共存を目指す取り組み


 バブルズ・ビーチの享受する恩恵は、天然泉だけではない。


 ケチル、ベサールの両島には、海亀が訪れる砂浜が複数存在するが、ホテルの敷地内の砂浜に海亀がやってくるのは、バブルズ・ビーチのみ。こちらの宿泊客は、タートルツアーなどに出かけずとも海亀の産卵に出会え、赤ちゃん海亀の誕生にも立ち会うことができるマレーシアでも唯一の宿だ。

 この貴重な体験は、偶然または幸運によってもたらされるものではない。宿の経営者とスタッフによる並々ならぬ尽力、そして宿泊客による理解と協力あっての賜物だ。


 バブルズ・リゾートの主な取り組み、ルールは以下の通り。


  1. すべての施設は浜辺から離れた木陰に位置し、宿泊棟はさらに奥に立地する

  2. 音楽は一切流さない。宿泊客も鳴らしてはいけない

  3. 夜は白色灯を用いず赤色灯のみ

  4. 宿泊客は、夜は浜辺には出ない、フラッシュ撮影をしない

  5. 大人も子どもも、夜は大きな声を出さない(日中は構わない)

  6. 海亀の卵の保護場所を設ける(野生生物からの保護を目的)

  7. 日暮れから夜明けまで、1時間に1度スタッフが浜辺を観察する

  8. スタッフが宿泊客に自然保護教育を行う(毎晩実施)

  9. 宿泊客にペットボトルの水は提供しない。スタッフ手製のガラス瓶が部屋に配布され、そのガラス瓶にいつでも給水所で水を補充できる

  10. ビーチタオルの提供はないが、代わりにバティック布が提供され、着替え(ドレス、スカート、寝間着など)としても用いることができる

産卵中の母ウミガメ

 上記の取り組みを見ると、「客よりも野生生物が大切にされているのでは?」と感じる方がおられるかもしれない。バブルズ・リゾートの経営者であるペイ・シーさんによると、実際、滞在中に不満やストレスを訴える宿泊客も多いという。それでもこの取り組みを続ける理由を伺ったところ、次のような回答が返ってきた。


「この浜の先住者は彼らです。遥か昔からここを生活圏としている彼らと共存する方法を模索しなくてはならないと思ったのです」(ペイ・シーさん)。

オーナーのペイ・シーさん

 もともとこの地では、本土で暮らすオーナーによって小規模なシャレーが営まれていた。ペイ・シーさんはプロダイバーとしてその腕を見込まれ、2004年、ダイビングスクールの講師兼シャレーのマネージャーとして浜に招聘された。ある朝彼女が浜に出ると、まるでトラクタが走り回ったような跡が浜辺に残ってた。夜間、誰かがこの浜を勝手に開発しようとしていると疑った彼女は夜通し浜の番をし、とうとう浜を荒らす“犯人”を突き止める。ー海亀だった。


 母亀産卵の様子を目の当たりにしたとき、雷に打たれたような衝撃的な感動を覚えたという。直ちにオーナーに野生動物保護のための対策をとるよう訴えるも了解を得られず、2006年、意を決して経営権を買い取った。以来、家族とともにバブルズ・リゾートを運営している。


 「ホテルの経営も初めて、野生生物の保護も初めて。すべて1からの勉強で、寝る間などありませんでした。ベッドメーキング、レストランでの調理、マネジメント業務をこなした後は、月の満ち欠けや月の位置、潮の満ち引きや時間、海亀の来浜の様子を手作業でデータ化。海亀を個体ごとにスケッチして特徴を覚え、1個体あたりの来浜頻度を目視して記録に留めました」。


孵化した直後のウミガメ

 そんなペイさんの取り組みに賛同する人々が集まり始め、改めてエコツーリズムに徹することを決意。スタッフと宿泊客が一丸となってこの浜を守るというコンセプトの宿作りを始めた。


 今では海亀のほか、陸地では希少種のダスキー・リーフ・モンキー(写真下)、オオトカゲ、色とりどりのの美しい蝶、海ではクマノミを始めとする多様な熱帯魚やフレンドリーなベイビーシャークなどの様々な野生動物が宿泊客を出迎える。夜には灯が一切消されたホテルの空に満点の星が煌めき、海では発光プランクトンが時折輝く。


 湾内では、浜にも海中にもゴミは見当たらない。スタッフと宿泊客がゴミを見つけては拾い上げているからだ。手作りでシンプルなかつてのバブルズ・リゾートは、今や自然の宝庫であるベサール島を象徴する宿として知られるようになる。


モダンなリゾートライフも可能なケチル島


 美しい海と適度なモダンリゾートライフの両者を満喫したい方には、ケチル島がお勧めだ。レストランホッピング(レストランめぐり)や音楽、アトラクションを楽しめる上、本土の高級ホテル並みのサービスを享受できる宿も複数立地する。バックパッカー向けの簡易宿泊施設やキャンプ場もあり、滞在場所としては、より豊富な選択肢がある。

ケチル島のビーチ。リゾートらしい風景が広がる。

 欧米からの観光客はケチルを拠点に、シュノーケリングやダイビングツアー先としてベサールを訪れるケースが多いという(ベサール島周辺に位置するタートルポイント、シャークポイント、コーラルガーデンは人気ダイビングスポット)。


 観光客が多数滞在、または訪れるロングビーチは、海辺ぎりぎりまで数多くのレストランや宿泊施設が並ぶため海亀の来訪は期待できないものの、白砂のビーチの美しさとその景観は見事の一言に尽きる。透明度の高い海という点では、ベサール島と変わりはない。本土の著名レストラン並みかそれ以上の料理やカクテル、ナイトライフ、リゾートらしい雰囲気を味わいたい場合は、ケチルに軍配が上がるだろう。



ケチル島はグルメ島でもある

 豊かな自然に触れ、美味しい料理に舌鼓を打ちたいというならば、ベサール島を拠点に、ケチルへ食事に訪れるのも良いだろう。


あらゆる客層を取り込む島の魅力


 プルヘンティアンは、特徴の異なる大小の島が存在することで、あらゆる層、あらゆる嗜好に対応し、その魅力を高めている。

学校帰りの子供。水上タクシーで帰路へ

 観光が島の経済を支えており、人の往来を可能にする小舟やスピードボートを駆使して物資や廃棄物の運搬などで生計を立てる人々が大多数を占める。島で暮らす人々は、自前のボートや水上タクシーでモスクや学校を行き来する。


 なお、観光客としてこの島を訪れる際には、プルヘンティアンへ向かうボート乗り場で、島の維持を目的とした入島税を支払う仕組みとなっている。外国人に課せられる税は高いが、アジアの誇るべき島を未来永劫残すためならば安いものだ。


 ゆっくりと流れる時間を堪能し、自然に寄り添って過ごすことのできる楽園、プルヘンティアン。滞在期間以上の時間を過ごしていたかのような錯覚すら覚える。


ウミガメが産卵のために上陸するバブルス・ビーチ

 こちらを訪れる際は、パソコンや携帯を手にWi-Fiの接続状況の良い場所を探して歩き回るようなことをせず、島の自然と美しさを100%味わってはいかがだろう。(文・写真/渡部明子)


*世界のベストビーチ100にはマレーシアから、ティオマン島のジュアラビーチ21位、ランカウイ島のタンジュンリュービーチ49位もランクインしている。


**コタバル空港から、バスやホテルの送迎用バンでクアラ・ベス港(トレンガヌ州)まで1時間、港からは乗り合いボートで約1時間、ホテル直行ボートであれば約40分で目的地へ到達する。なお、送迎・移動については、宿泊先に相談すればアレンジしてくれる。



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